G-FP2DF1P69Y 「高校生活にバイクは不要」(埼玉県教育委員会 さいたま市教育委員会): 小林ゆきBIKE.blog

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2013.09.04

「高校生活にバイクは不要」(埼玉県教育委員会 さいたま市教育委員会)

2013年9月2日(月)鈴鹿サーキットで行われた第一回バイク・ラブ・フォーラム

主催は、日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車輸入組合、日本二輪車協会、全国オートバイ協同組合連合会、全国二輪車用品連合会、日本二輪車オークション協会、三重県、熊本県、浜松市、鈴鹿市、大津町、経済産業省の連名です。

現場ではみなさまにたいへんお世話になりました。
いろいろなジャンルの方々とお知り合いになれて光栄ですし恐縮です。


というわけで、きょうはバイクブーム世代の大好物、「3ない」についてのお話をだらだらと書こうかと。


* * * * *

さて、フォーラムのわりと最初の方の質疑応答で、わたしの質問 (内容についてはまた後日、詳しくブログに書きますが)がきっかけで、自工会の方が示した興味深い書類がありました。

埼玉県教育委員会とさいたま市教育委員会が新入学生に配っているというとあるチラシです。

タイトルは

『合格おめでとうございます』

ですが、その内容は、

高校生活にバイクは不要

というもの。

衝撃的ですが、バイクフォーラム会場はこのスライドがあらわれたとき、爆笑に包まれました。

現物の1枚目はこれです。

Photo_2

埼玉県下には、世界一の二輪車生産量を誇る本田技研工業の生産拠点があったり(ま現在は二輪は作ってませんが)、HRCもホンダR&Dもホンダアクセスもあるのに! 企業城下町なのに!

囲みの中に、

バイクの免許取得・購入・乗車を認めない

とあるいっぽう、「特別な事情」ということで一定の譲歩も書かれています。


・特別の事情とは、通学に際し、利用し得る適当な交通機関がなく、しかも遠距離のため自転車通学が困難であることや、身体上の故障等により他に適当な通学方法がないと認められる場合。また、家業の手伝いや定時制の生徒の職業上の都合等で二輪車等を使用する必要が認められる場合などである。

16歳で原付や普通二輪車の免許が取得できることは、ある意味、国民の権利ですから、学校がとやかく言う筋合いはないし、「道路交通法を理解している」ということを国が担保して免許を発行するわけですから、むしろ学校は褒めてやっていいくらいだと思っております。学校教育で満足な交通教育が行われていない以上、本人の努力で運転免許証を取得することを学校が制限するのはナンセンスだと思っております。

(これについては、教師の教育課程に交通教育の課程がない、だとか、自転車通勤・通学の条件として道路交通法を理解している証としての原付免許以上取得を推奨してもいい、などのアイディアがありますが、それについてはまたいつか。)

ですから、本当に必要な高校生、例えば、家庭の事情でどうしてもアルバイトをしなければいけない、その際、原付免許を持っていればできる仕事──新聞奨学生や郵便やそば・ピザの配達など──そういうことを、「3ナイ」のくくりで一緒くたに禁止するのはいかんな、と。そういう意味で、このチラシにある「特別な事情」という譲歩は一定の評価をしてもいいかもしれません。

あと、このチラシには「(バイクは)認めません」と書かれていますが、それによりどんな罰則があるのかは各学校により違うのでしょうかね。昔は、(30年くらい前は)学校によって免許取っただけで退学、なんて話もありましたし、それに関して裁判が起こされたということも記憶しております。

それに対して、ちょっとした興味でカジュアルに乗ろうという子らの欲望を手放しで認めるのもまた違うかなぁ、と。

紹介したチラシには、事故を起したら賠償金がうんたらと書かれていますけど、1億円という脅し文句は交通安全に対して何の効果が出るのかなと。

わたしは、高校生に限らず若年層(中高年も同じことが言えるとは思いますが)がバイクに乗ることに関して、最低限、バイクの免許取得・購入・装備・そして任意保険まで自力でまかなって欲しいと考えています。

現在、教習所で他の免許がない状態で普通二輪免許を取得する場合、だいたい25万円前後かかります。
250ccクラスの中古のオートバイを買うとして、車両代金が30万円前後。
自賠責はもちろんのこと、任意保険は21歳以下だとぐっと高くて年間10万円前後。
ヘルメットからバイク用ジャケットやブーツまで装備を揃えると10万円程度。

合計、75万円もの初期投資を、高校生のバイト代時給800円でまかなうとしたら、どれくらい働けばよいのか。

935時間、1日5時間働くとして、187日かかります。月に20日間の稼働なら9か月ちょっとかかる。

これだけ高い金額のかかることを、親や祖父母がカジュアルにこずかいとして与えてたら、大切に乗ろう、安全に乗ろうという意識は薄れるかもしれません。

ならば、原付程度から乗り始めて、十分、訓練と知識を積んだ上で、その先、バイクに乗るかどうか、考えたらいいのではないかなと。

バイクブーム世代の親・祖父母がきっかけで興味を持たれる高校生・大学生が増えてきました。家にあるバイクを子どもに、孫に乗せようという方もいらっしゃることでしょう。
どうか親御さん、祖父母のみなさまにおかれましては、バイクに乗るとはどういうことか、十分な道路交通法の知識があるかどうか、十分な装備やメンテや保険を準備するにはいかにお金がかかることか、そして相応の運転技術に到達しているかどうか、己のレベルを把握しているかどうかなどなど、お子さん、お孫さんがどこまでどのように考えているのか把握した上で、バイクに取り組んでいただきたいな、と思っております。

あと、チラシの2枚目に高校生がバイクで関連した事故件数と死者数の表が出ていますが、一見、減っているように見えて、それは昭和50年代の空前のバイクブーム時代(バイクが日本で300万台売れていて(今は輸入車等を含めて50万台くらい)、高校生が競って原付に乗っていた時代です)に比べれば激減なのですけれども、平成に入ってからは横ばいになっているように見えます。
たしかに、事故件数は減っていますが、事故件数当たりの死者数は計算してみると顕著な傾向は出ず、むしろ横ばいにも見えます。
これは、「高校生活にバイクは不要」施策は高校生の命を守っていることにつながっていないんじゃないか? とも感じます。
(とはいえ、平成25年の埼玉県における原付・二輪車の高校生の死者数はゼロ ※下線部を追記しました)


……話が右往左往してすみません。

最後に言えるのは、このように高校生にバイクは不要と唱える埼玉県でさえ、「3ない運動」という言葉はもはや使用しておりません、ということがこの一件からわかったことでした。

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