ホンダの電動バイクEV-neoの実証実験の経過発表会に行ってきた
( ホンダ EV-neoの公式サイトより)
先日、環境省の地球環境局温暖化対策課が主催する「平成24年度 地球温暖化対策技術開発成果発表会」に行ってきました。
というのも、ホンダの電動二輪車の実証実験の成果発表が行われたからです。
ちなみに他の発表は、「既存住宅の断熱性能向上のための薄型断熱内装健在に関する技術開発」(パナソニック、エコソリューションズ)、「水素・燃料電池社会構築のための負荷対応型水素精製システムに関する技術開発」(神戸製鋼所)というもので、二輪や乗り物関係だけの発表会ではありません。
行政主催の催しであり、なかなか堅い雰囲気の集まりで、まずは環境省地球環境局担当者の挨拶から始まりました。政権交代したばかり、それも国会開催直前ということでバタバタしたりもしておりましたが、
「政権交代しても、新大臣は低炭素社会の実現というスタンスなので、この事業は引き続き変わらずやっていく予定」
であることを明言されていました。
以下、ホンダの発表の中から興味深かった点を抜粋しておきます。
主催:環境省地球環境局温暖化対策課開催場所:2013年1月18日(金)椿山荘にて
題目:「業務用電動二輪車の実用化に向けた一般公道走行による実走実験」
(平成22~23年度二酸化炭素排出抑制対策に係る地球温暖化対策技術開発等事業)発表者:林達生(本田技研工業(株)二輪R&Dセンター)
●実走実験の狙い
・「実用に耐えうるか」という視点での実証実験。
・実際に実証実験に参加したのは、銀行、オフィス機器のメンテナンス業務、エレベーターのメンテナンス業務、警備業務、水道検針、ピザ配達、新聞配達。
●まずは二輪車の現状についての説明(バイクの現状を知らない人たちが多い会合なため)
・中国では電動二輪車が多いが、インドなどはまだガソリン車が多い
・中国の二輪車用レーンで走っている二輪車の多くは、自走電動自転車(自転車の形をしていてペダルもあるが漕がずに進む。免許不要、ヘルメット不要)である
・しかし、中国の電動二輪車・自走電動自転車は鉛バッテリー主体である
・中国は平たい(平野が多い)ので(トルクの面で)鉛バッテリーでも坂道などに対応している
・鉛バッテリーはリサイクルの問題はある
・中国では電動二輪車が生活に溶け込んでいる状況にある
●EV-neo業務用電動二輪車について
・EVはパーソナル向け(一般個人ユーザー)では値段(が高い)、航続距離(が短い)の問題がある
・しかし(ホンダの社風として)難しいところからチャレンジした
・リチウムイオンなら急速充電が可能なので、ピザ屋などは配達の合間にチャージすればよいのでは?という発想から始まった
・郵便配達でも
●EV-neoの車体構成について
・二輪車は四輪に比べてバッテリーが積めるスペースが限られる
・航続距離は稼げないけど、急速充電すればどうにかなるのではないか、と考えた
・四輪はチャデモ?(チャージ用のシステム?)は大きいのが付けられる、二輪は(大きいものを付けると)ひっくりかえっちゃうので小さいのを付けている
・ev-neoの走行可能距離は34km/wh(カタログ値)、通常使用では22-23km程度
・東芝のバッテリーを使っている
・ガソリン二輪車のバッテリーは通常6年くらい使われていて、(使用状況によっては)10年くらい使う人もいる
・バッテリーの重さは3パラ(1個5kg)=15kgで、パッケージ含めて約20kg
・熱が上がると冷却ファンが回るようになっている
・冷却はスペースがきついが安全面など考えて付けることにした
・旭川ではマイナス10度くらいでもチェーン巻いてバイクで走っていて、そのような郵政のユーザーもいるので、そこまで対応したいと考えた。普通リチウムイオン電池はマイナス10度まで対応しない
・気温がマイナス10度くらいできついときは出力を落として動くように開発した
・3.5時間で満充電
・昨今のEVは100ボルトコンセントから出す(オンボード)のが通常だが、オフボードとして対応した
●EV-neoの実証実験について
・試作車は2010年秋ごろ、9社に乗ってもらった。データロガー積んで使い勝手など吸い上げた。
・2011年には100台のリース車からメインは劣化に関して、他、いろいろデータを収集した
▼ステップ1・いろいろな使い方の業種に関してデータ収集
・あっと言う間に文句が来た。新聞配達は電欠したとの報告。22-23km走るからもつと思っていたら、
開けたら停め、開けたら停めする(という走り方をする)ので電気がもたなかった
・そこで顧客に乗り方、evの特性を伝えた。やさしく開けて下さいと。新聞配達はこれまでエンジンかけたまま停めるのが普通だったが、停めたときスイッチ停めてもいいと伝えた
・ピザの実証実験は3.11にぶつかった。震災の日にガソリンがなくなったので、電気バイクは重宝された。使い方によって80km走った
・新聞は停まっている時間が多い。銀行は走っている時間が長いが、その方が電費がよいことがわかった
▼ステップ2・リース台数を増やし全国で様々な業種でデータを収集
・パイロット生産後、東北、関東、中部、関西、九州のユーザーに広げた
・新聞配達は(EVは音が)静かなので、早朝の配達時に静かで良いと顧客の反応がよかった
・もともとEVを開発したのはエコロジー、つまりエミッションの面でメリットがあると考えていたが、しかしevは音というメリットが大きかった
・ピザも同様の反応だった(音の面)
▼充電について
・急速充電は200ボルトの工事をしなければならないので100ボルトのところも
・evだけのバイクでピザを配達してくれたところもあった
・充電スペースに関して、どんな配置だと充電の仕方が効率がいいか直していった
▼業種による違い
・新聞配達は航続距離が短いのは、クレームが多くて、実際には使ってくれていなかった
(一部は年間1万キロ走った新聞配達車も)
・銀行業務ではエリアに差が。郊外はデンケツが怖くて使ってくれてなかった。途中で使わなくなった
・新聞は年1000回以下、空き時間が長い(配達は朝夕だけ)ので、そのときに充電すればよい。ピザは稼働時間内にちょこちょこ充電している
▼充電間隔、バッテリー劣化について
・電欠すれすれ10%になってから充電する人はいない。100%近く残っていても充電しているケースが多い。ユーザーは電欠がコワイ、ということがわかった
・バッテリー劣化は使い方よりも経年劣化によることがわかった
▼ユーザーの声
・二輪メーカーなので動力性能を気にするが、アンケートによると、「けっこう走る」という声が多い 。EVは発進トルクがあるので、荷物を積んでも50㏄以上に感じる
・早朝、騒音が少なくてよい
・充電時間はまあまあ、充電の操作も難しくはないという評価
●結論
・使用期間の経過を分析すると、どのくらいの頻度で使うかは、1ヶ月後と12ヶ月後の比較では、毎日使うユーザーも増えているが、週に1日しか使わないユーザーも増えていて、両極化した
・充電頻度はセグメント(残量)に関わらず毎日充電するというように変わった
・結局、EVは「困っている人」(例えば騒音を気にしなければならないユーザー)が買うのではないか
・ガソリン車に比べて電動車は航続距離が圧倒的に短いのが課題
■質疑応答
Q:ガソリン車の航続距離との比較を教えてください
A:ホンダにはEV-neoと似たような車両(*1)があり、ガソリンが10リットル入って600kmの航続距離がある。しかし電動二輪車との単純比較はできないと考えている。現状、電動二輪車は実際の走行可能距離は22-23㎞である
Q:バッテリーそのものの耐用年数(寿命)はどれくらいか
A:(まだ5年経っていないので推測値)どのような曲線で劣化していくか、ゆるやかに下がっていくだろうと推測している。5年で7割以上の残量であると予測、マイナス15%程度と推定している。したがって5年くらいは持つと考えている
Q:阪神大震災のときに電動スクーター使って、自身は電ケツしたことがある。重くて押せないので、トラックに来てもらって積んで帰った。今回の実験で、走っている最中電ケツしたものはあるか?
A:あったが、近場だったので押して帰ったという報告がある
Q:帰って来て充電するのはけっこう面倒で忘れてしまうのではないか。駐輪すると自動的に充電するシステムはどうか
A:四輪で構想がある無接点充電も当然考えた。ただし技術的な課題もある
・ところで、ケータイなどは、充電器に刺せば充電が始まるというシステムだが、EV-Neoは充電器に刺してスイッチ押して充電スタートというシステムなので、スイッチを押すのを忘れるという事例があった。次期開発の課題である
Q:電ケツしたとき、チェーンが付いたまま押すとモーターが重いのでは? チェーンは外れる仕様か?
A:このev-neoは遠心クラッチなので押すのは(自動車と違って)軽い
Q:ガソリン車だと予備タンクがあるバイクがあるが、予備電池のような概念を入れればよいのでは?
A:余裕あるリザーブ量を出すよりは電池容量をフルに使えるようにした。他社にシート下に電池着脱式のもの(*2)もある
*1) ヤマハギアに似ている実用車 ベンリイのことと思われ。*2) スズキe-Let's のこと。
* * * * * *
以上のような内容でした。
EV-neoの実証実験が始まるとき、わたしは正直いいますと、マシンの実証テストを社内で行わずに一般ユーザーに丸投げなのはどうなんだろう、開発期間の目標が短すぎ? 社内にテストする機器や人員が足りなさ過ぎ? などと穿った見方をしていたのですが……。
約20分の発表、10分の質疑応答という短い時間ではありましたが、たいへん内容の濃いご発表だったと感じました。そして、わたしの穿った考え方も変わりました。
とくに今回の発表会では、実証実験のかなり詳細なデータを公表されておりまして、ネガティブ情報も含め、電動バイクという視点だけでなく、「二輪車はどのような場面で必要とされるか」のヒントが散りばめられていたように思います。
そのような視点は、今回、一般の業務用ユーザーから得られた実用としての実際のデータ、そして現場の声の両方から分析しなければ得ることができなかったと思います。
このような手法は電動バイクに限らず、通勤通学に使われるスクーターから、250cc以上の趣味としてのバイクまで、さまざまに応用できるのではないでしょうか。
とくに、ホビーバイクはこれまで“マーケティング”というユーザーの声(=感情と言い換えてもいいかも)と、実際の売れ行きから、車両の企画が決まっていくものだったと思いますが、今回のEV-neoのような走行データや駐輪場所などの分析までしていくと、新たな需要の創造につなげることができるかもしれない、などと可能性を感じました。
恐らく、EV-neoの話しは、今後も自動車工業会やその他のアカデミックな学会でのご発表、そしてモーターショー等で展示などされると思いますので、業界の皆さん、アカデミアの皆さん、そしてEVにご興味のある皆さん、EV-neoに関する展示や発表に注目してみてはいかがでしょうか。
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