G-FP2DF1P69Y 安全に対する考え方が伝わらないもどかしさ: 小林ゆきBIKE.blog

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2011.09.13

安全に対する考え方が伝わらないもどかしさ

先日、ひさびさにサーキット(カートやミニバイク向け)に練習走行しに行ったときのこと。
一緒に行ったグループの初心者の人たちが何度も後続車を気にして直線路で急に速度を落としたり、進路を譲ろうとしてコーナー立ち上がりで突然、イン側に進路変更したりして自分も含め他車がぶつかりそうになったりしていた(※)ので(もっとも、見るからに危なっかしい走りではあったので、自分も他の人たちも注意して走っていて実際に事故は起きませんでしたが)、以下に挙げるサーキットの走り方の基本的な注意事項を伝えました。

(※通常、サーキット走行では速い人はイン側から抜いた方が、抜く方も抜かれる方も安全とされています。また直線路で抜く場合、速度差を利用して追い抜くので、抜く側は極力直線的に走って速度を上げるため、急な進路変更をされると衝突の危険性が高まります)

その人たちは知人の知人で、その日初対面でしたが、わたしはバイクに携わる者として、また自分もその日は彼女らと同じコースを走ることになっていたので、わたしはそのグループのリーダーでもなければ、彼女たちの先輩でもないし、ましてやサーキットの関係者でもないわけですが、ルールやマナー、安全に対する考え方を伝える必要があると思い、走行の合間に声をかけて集まってもらい、サーキットの走り方について次のような話しをしました。

・遅いライダーは速いライダーを気にする必要はない。速いライダーは勝手に/上手に抜いていく。(基本的には)前を注意して走りましょう

・サーキットは急な進路変更は禁止です

・もしも「慣らし」やマシントラブルなど理由があって遅く走る場合は、基本的にはコースのアウト側(そのコースは右回りなのでコースの左側)でレコードラインを外して走ることになっています

・というか、サーキットは遅く走ってはいけないのです

・あまり自信がないようなら、初心者用などに設置されている自由に走れるショートコースでまずは練習しましょう

ちなみにそのサーキットは、1台1日いくらの料金を払うと、何名でも乗ることができ、またときどきカートの走行が入るとき以外は、基本的にチェッカーを入れて走行時間を管理するということもなく、かなり自由に1日中走れるコースです。
基本的にはカートコースですが、現在はバイクの走行の方が多く、ミニバイク中心ではあるものの、排気量に制限はなく、スーパーモタードや街乗りのビッグバイクの方々なんかも練習しているのをよく見かけます。
排気量別の走行時間枠というのもなく、その場にいるライダーが各々、走ってるバイクの台数や様子を見ながら、自分の走りやすいタイミングでコースインする、という感じ。
また、カートコースの隣にはさらに小さいショートコースがあり、初心者や「慣らし」の人は、気兼ねなくそちらで練習することもできます。ショートコースも走行時間枠はとくに設けられておらず、自由に走ることができます。
要するに、各自の自主自律のもと、運用されているコースなのです。なので、なおさら経験者がルールやマナーを初心者に教える必要があります。

* * * * *

さて、ちょっと細かいディティールは忘れましたが、まず話したのは、次のような文言だったと思います。

「ええっと、サーキットでは後ろを気にしすぎたり、道を譲るとか、急に進路変更しないでくださいね。後方確認なんかしちゃダメです」

すると、なぜか彼らは大爆笑しました。

あとでなるほどと思ったのですけど、彼ら/彼女らの職業は全員、人の命を預かる職業、あるいは言い換えると免許を取るときほとんどのライダーが最初にお世話になる職業、一人は試験までを行う見なし公務員(※)という立場の方、というメンバーでした。
彼女らの爆笑はたぶん、自分たちの職業上、常々、教習生に必ずやらせなければいけない「後方確認」という言葉に反応したのだと思います。

でも、わたしはそれに気付かず、安全のことを言っているのに、何を笑っているのだ、と感じ、正直、カチンと来てしまいました。
「伝わらない」の第一の原因は、わたしがカチンと来てしまったことにあったとは思います。

(※ここで職業を明記するのは、「安全思想は公道もサーキットも本質は同じ」ということを強調したかったからです)

それで、たぶんわたしは険しい表情をしたと思うのですが、次のように続けました。

笑い事じゃないんですよ、もしぶつかってコース上で転倒して後続車に轢かれるとか、誰か死ぬとか、死なせてしまうとか、そういうこともあるんですよ、それはこういう小さいミニバイクコースでも同じですよ」

これからバイクやサーキット走行を楽しもうという人たちに、いきなり「死ぬ」とか言うのはかえって逆効果だ、そういうことは徐々に本人が知ればいい、と基本的は考えています。しかし、ミニバイクコースであっても死亡事故があるのは事実です。
彼女らは、仕事でバイクに携わっていて、そのスキルアップのためもあって練習走行に来ていると聞いていましたので、ついつい、厳しい口調と内容になってしまいました。
「伝わらない」の第二の原因は、いきなり極端なことを言ったことにあったのかもしれません。
わたしの場合はたぶん特殊で、一般の道路でもサーキットでも、死亡事故そのものの一部始終を何度か目撃したという経験があります。また、友人・知人、関係者などの悲しい出来事は数えきれないほどあって、どうしたら最悪のケースにならないかを常に考えながらバイクに乗ってきました。そのような安全に対する考え方の本質は、街乗りでもサーキットでも変わらないと思っています。
でも、世の中にはラッキーな人もいて、いや、もしかしたら世の中の大半のひとは、悲しい出来事に遭遇したこともなく、見聞きすることもなかったりするのかもしれません。だから、そこまで想像力が働かないかもしれないし、ましてや、その日は休日をサーキット走行で楽しみに来ているのに、初対面の女がいきなり説教こきやがって不愉快だ、と思わせてしまったのかもしれません。

「コースによってルールは違うけど、ここのコースは右回りで、コースインは左から、コースアウトも左からですから、もしも遅く走らなければいけないときは、コースのアウト側を走るのが基本です」

と続けました。すると、彼女らは、

「えー、知らなかったー! アウト側を走らなきゃいけないんですかー、初めて知ったー」

などとというのです。このような基本的な注意事項は、サーキットライセンスやMFJの競技ライセンスを取るときは必ず講習を受け学ぶ基本中の基本の内容ですが、そこのカートコースはそもそもライセンスがなくても走れるので、そのようなスポーツのマナーは、連れて行く経験者/先輩らが伝えなければ伝わりません。

もしかして、その日が初めてのサーキット走行かなと思って尋ねると、そんなことはなくて、何度か走りに来てる、と言います。

「じゃあ、センパイが悪いなぁ……」

彼女らに中古のミニバイクを譲り、練習走行も同行しているという知人Bさんの方を向いて、ついつい、つぶやいてしまいました。
知人Bさんはたぶん10年くらいミニバイクのレースに出ている人なのですが、あるいはMFJなどの講習を受けたりしたことがないのかもしれません。わかりません。たしかエンジョイ会員ライセンスで出られるレースに参戦していたと思うのですが、本コースを走るようなレースと違って、レース前のブリーフィングで基本的なサーキット走行のルールの確認などは伝えられないのでしょうか。それとも、Bさん自身ののパーソナリティなのでしょうか。

歯がゆい思いのまま、話しを続けたのですが、初対面Eさん(初心者・女性)が早く話を切り上げたいという風情でまくし立てました。

「はいはいすいませんでしたすいませんでした、勉強不足でした、わたしが悪かったです、すみませんでしたすみませんでした」

とっさに、このようなことを思い浮かべてしまいました。
例えば教習中に、教習生が後方確認を怠ったまま進路変更してしまい、後続車と衝突事故を起こしそうになったとき、指導員として「後方確認しないと」と指導したとします。そのとき教習生が(怒られちゃったなぁ)と感じて、その場を取り繕うために言う「すいませんすいません」と言うのに似ているなぁ、なんて思ってしまいました。安全を伝える仕事をやっている人、ましてや検定試験までも見なし公務員として行っている人なのに、そういうことに違和感を感じないとしたらそれは大問題だなぁ、などと想いが拡がってしまいました。なので、

「いやいや、すいませんでしたとか、謝る話しじゃないんですよ、これからどう走るかって話しをしているんですよ。サーキットはゆっくり走ってはいけないって決まりになってるんです。もしゆっくり走るなら、向こうのショートコースで練習してください」

と言いました。すると、次の言葉が返ってきたのです。捨てぜりふのように。

「じゃあ、初心者は走っちゃいけないんですね?!」

正直に言いましょう。
わたしは彼女のことばに絶望感をおぼえました。
ええ、もちろん彼女が教習指導員かつ検定員という職業だからです。
それは先入観だし、フィルターをかけているし、ラベリングをしているわけです。しかしそれは、決して彼女個人に対する絶望感や非難などではありません。彼女の背景にある、ライダーの卵に教育・指導する場に対するものです。バイクの免許取得の際に教育・指導・試験するような立場の人の中に、そのような考え方の人がいるという事実に、なんだかもやもやした気持ちをおぼえたのです。

「初心者も走っていいんですよ、誰だって始めはしょしんし……」

言い終わらないうちに、結局、彼女は話を遮ってプイっと行ってしまいました。

わたしの言い方が悪かったのかもしれません。
たぶん彼女はわたしの職業やこれまでのバイクの経験を知らないだろうし、もしかしたらわたしが女だから、同年代(に見える。たぶん彼女たちの方がずっとわたしより若い)の同性に言われることで「テメーに言われる筋合いはねーよ」と感じたのかもしれません。

日本の指定教習所制度は「料金が高い・時間がかかる・実際の運転とかけ離れている」などと批判的な意見も多いのですが、わたしは日本の指定教習所制度は世界に誇れる面も多々あると考えており、教習所はライダーとなる入り口なので、教習所に対して特別な期待感を持っていたために、熱く語ってしまったのも、逆に伝わらない原因だったかもしれません。

* * * * *

わたしはかねがねより、「モータースポーツとは次にどうするかを考えるスポーツ」だと思っています。

だから、もし事故が起こったとしても、そのイベント/カテゴリーを中止する・禁止する、という結論ありきではなく、まずはどうしたら次に事故が起こらないようにできるか、どうすればもっと安全に走れるようになるかを、施設の面、マシンの整備やレギュレーションの面、ライダーの装備、ライダーのスキル、ライダーの心構え、などなど、多角的に分析してそれぞれ取り組んでいくことが、モータースポーツの望ましいあり方ではないかと考えてます。

そして、安全に対する思想は、本質的に公道だろうが、サーキットだろうが変わらない、とも思っています。

「安全第一」のためのことばがなぜ伝わらなかったのか。

伝え方が悪い自分を反省しつつ、どうしたら伝わるかを今後も考え続けていきたいと思います。

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 久々にこのお名前を出しますが、いつも読んでるブログの中に小林ゆきさんという女性のバイクジャーナリストの方のブログがあります  そこで今日はサーキットの走行の仕方について書かれていたので、二輪と四輪の... [続きを読む]

受信: 2011.09.14 04:57

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