日本にはバイク文化があるじゃないか
震災復興のために、バイクがどのように役立てるのか。
災害救助、緊急援助・支援の段階から、復興の段階に徐々に向かおうとしているいま、バイク──とくに原付、原付二種、軽二輪(250ccクラス)、小型二輪の普通二輪免許で乗れる排気量(400ccクラス)あたり──のバイクの被災地における役割は、何かしらあるんではないかと思っています。
とくに、そもそも公共交通機関が衰退していた郊外型地方都市・農村・漁村の交通手段は、バブル前後からの20年間で、鉄道やバスなどの公共交通機関からクルマ社会に完全に移行していました。そこへ、地震の影響による道路被害や津波被害の結果、バイクは、
(1)移動手段としてのバイク(2)情報伝達手段としてのバイク
としてその役割が期待できるのではないかと思います。
実際、すでに全国オートバイ協同組合連合会のバイクレスキュー隊が宮城県の要請を受けて、石巻市で物資の運搬や情報収集などのボランティア活動にあたっています。
この活動は外部からの働きかけによるボランティア活動としてのバイクの役割ですが、今後は、そこに生活する人びとにとってのバイクが、復興に一役買うことができるのではないでしょうか。
* * * * *
さて、ここからは現在バイクに乗っている/作っている/販売しているユーザーに向けてのメッセージ。
以前からたびたび申し上げているように、わたしは
「バイクは趣味の乗り物である前に、移動するための乗り物である」
と主張しています。これは何も、バイクの趣味性を否定するものではありません。バイクの利便性、バイクの快適性、爽快さを経験し、それらの何かを極めたい一部の人びとがバイクを趣味の対象にするのであって、バイクという存在そのものが交通社会の中に組み込まれる存在である限り、バイクの本質は第一義に「移動するための乗り物」でなければならないと考えています。
それはつまり、止まる・走る・曲がる、排気音や排出ガスなどの性能が現代の交通社会というシステムの中でいかに他の交通と共生できるかが、バイクに要求されるもっとも重要な性能なのであり、原付スクーターやスーパーカブなどビジネスバイクから、2、300万円もするスーパースポーツまで、基本的に等しく要求されるべき部分であるとわたしは考えています。
その上で、よりエンジン性能を求めたい人はエンジンチューニングをすればよいし、ブレーキ性能を高めたい人はカスタムすればよい。見た目をドレスアップしたい人はカスタムやペイントなどで飾ればよいし、メンテナンスを極めたい人はレストアという楽しみがある。歴史を語りたい人は旧車のコレクションをするなど。スポーツを極めたい人は、サーキットなどで腕を磨けばよいし、バイクのスポーツを楽しみたい人は観戦という方法もあるのです。
これまでも弊ブログで、「バイクは趣味の乗り物か、コモディティか」(2006.10.30)と題したエントリーでは、白モノ家電化するスーパースポーツモデルに言及し、「ドゥカティ・ニューモンスター696の発表会に行ってきた」(2008.06.16)では、
確かに、バイク業界は過去、生活必需品・社会の必要性から発展して、80年代にはバイクブームを経て“趣味の乗り物”として一部マニアのものだけに淘汰されてしまった感がある。
と書きました。
「バイク業界に必要なのはトラフィック増」(2007.10.28)では、
日本の二輪車販売台数を支えていたのは、紛れもなく50㏄、原動機付き自転車である。免許制度、保険制度、車両区分制度などありとあらゆる国策に支えられて、「手軽に免許が取れて、手軽に購入できて、手軽に利用できる便利な乗り物」として、下は16歳から乗れる、歳を取ったらバスより便利、タクシーより安い、自家用車より場所を取らない乗り物として普及してきたハズだ。
と書きました。これに関連して、JAMAGAZINE 2010年7月号に『仕事・生活のバイクの現状とこれから』という文章を書きましたが、その中で、バイクの使い方は大きく分けて、「趣味のバイク・生活のバイク・仕事のバイク」の3つがあり、
「「仕事のバイク」の側面に関して、例えば警察の白バイによる警ら、郵便や新聞などの配達業務は現代日本の生活に深く浸透しており、当面変わることはないだろう」
と指摘しました。
とくに個別宅配の分野において、これほどまでに産業や社会生活にバイクが溶け込んでいる文化は、日本ならではと言えるでしょう。すなわち、これが日本のバイク文化の一端です。
JAMAGAZINの後半には、「4-1.バイクの用途に福祉の視点を」と題して、
「バイクの使用目的に「福祉」の視点を加えたらどうであろうか。買い物のための移動も、自分のためでなく、介護や介助が必要な人のための移動手段として二輪車を使うということになると、とたんにそれは社会全体の問題になってくる。個人的な欲求によるわがままな利用という響きのある「マイカー(=自家用車)」も、福祉の視点を枠組みに加えると、さまざまな改革が可能になってくるのではないか。
公共交通機関の整備や維持には自治体に莫大な費用負担がかかる。空気を運ぶような使い方のクルマではなく、駐車スペースが少なくて済む二輪車を必要に応じて駐車禁止区域を解除し、利用しやすいような道路環境を整備するほうが、公共交通機関を整備・維持するより格段に安く済むし、ニーズに合った移動手段を確保することにもつながる。
あるいは現在、郵便や電報の配達や医師の緊急往診や患者搬送に限られている「駐車禁止除外指定車標章」交付を、バイクに限って、対象を医師の定期往診や福祉関係者にまで広げることはできないか。省スペース・省燃費なバイクなら、福祉の視点でのアプローチが可能であると筆者は考えている」
のような提言を行いました。
すなわち、バイクの目的が運転者そのものの移動だけでなく、「誰かのためを目的とした移動」であるならば、そこには「福祉の視点が必要である」と言いたかったわけです。
* * * * *
さて、ここからは今、バイクに乗っていない方々に向けて、バイク業界側から働きかけたいメッセージです。
バイクは、優れてパーソナルな乗り物です。
バイクはたくさんの荷物が積めない。
バイクはたくさんの人を乗せることができない。
しかし、バイクには機動力があります。
クルマが入り込めない狭い場所でも進むことができます。駐車禁止エリアの少ない郊外や地方都市、農村、漁村なら気兼ねなく、一軒一軒回ることができます。
英語の交通を意味する語、transportationや、中国語の「交通」には、「情報」という意味もあります。
日本語の交通は、道路交通など陸運や海運、空輸、鉄道を指すことが多いのですが、移動するのは人や乗り物だけでなく、情報を伴って移動する、というわけです。
その情報の毛細血管をアナログ的につなぐには、バイクはなかなかに優れた乗り物ではないかと思います。
バイクは、登坂能力を保ったまま航続距離が伸ばせます。
自転車にはきつい山坂でも、バイクなら進むことができます。
原付ですらも運転免許が要るし、ヘルメット着用、時速30キロ規制など制限も多々ありますが、たとえばホンダTODAYなら4.6リットルタンクで燃費は届出値で73km/L。話半分としても、1回の給油で100km以上はゆうに走ります。スーパーカブやバーディなら燃費は届出値で100km/L以上。一回の給油(150円前後/1リットル×3リットル程度=500円くらい)で200~300kmは走ることができるのです。
バイクはそれなりの荷物を積んだまま走り続けることができます。
原付なら積載重量30kgまで、原付二種以上なら60kgも積むことができます。
原付二種以上なら二人乗りすることだってできます。
バイクはクルマに比べて劇的に維持費が安いです。
バイクの価格も、免許取得費用も、軽自動車税も、重量税も、自賠責保険も、任意保険も、ぜーんぶ安い。任意保険は原付・原付二種ならクルマのファミリー特約でまかなえてしまいます。
とりあえずの移動手段が必要な16歳以上の方なら、選択肢にあっていいはず。
問題は運転免許かもしれません。
もしかしたら、この20年ですっかり衰退してしまったバイク需要によって、バイクに乗るためには何が必要か、どうすればいいのか、という情報が人びとの頭の中からすっぽり抜け落ちさせているかもしれませんね。
たとえば、
・普通自動車以上の四輪自動車免許を持っていれば原付自転車を運転することができる・原付、普通二輪(小型限定)、普通二輪(限定なし)は16歳から免許が取得できる
・原付免許はペーパーテストだけで取得可能(取得後、実技講習義務あり)
のような、基本的な情報ですら、考えが至る人が少ないかもしれません。
復興のために移動手段がどうしても必要、だけどクルマを購入するには100万円くらいもかかってしまう……、まだ18歳になっていないけど、とりあえずの移動手段が欲しい、そんな方は「バイク」という選択肢があることを考えてみてもいいんじゃないでしょうか。
現在、普通自動車・中型自動車免許をお持ちの方なら、普通二輪の小型AT限定免許取得を視野に入れてはいかがでしょうか。
もし、指定教習所に通うとすれば、学科1時間+実技8時間+検定で、だいたい最短4~5日間から1週間以内で取得可能ですし、教習料金はだいたい5万円程度です。
運転免許試験場なら、検定料+試験車使用料で4600円、交付手数料(2100円)合わせて一回で合格すれば全部で6700円しかかかりません。
普通二輪の小型限定免許は、125ccまでのバイクに乗ることができ、時速30キロや二段階右折の呪縛がなくなります。また、二人乗りが可能になり(取得1年後から)、積載重量が大幅に増えます。
もちろん、バイクは雨天や荒天に弱いですし、地方によっては冬場に乗るのはキツいでしょう。
バイクならではの安全運転テクニックがありますし、できるだけ安全な装備があった方がいいし、多少の整備の知識があれば尚よし。気軽に、無邪気に、誰にでもおすすめできる乗り物でもない、とバイク乗りの立場からも思います。
でも。
もうすぐやってくるであろう春先から、バイクに乗りにくくなる冬場までの約半年ちょっと。とりあえずの移動手段として、バイクは復興を手助けすることができるかもしれません。
そういう意味でも、とりあえずバイク、そう考えているかもしれない方々に対して、バイク販売店さんは良質のバイクや整備技術を提供していただきたいし、安全運転やスポーツライディングに長けている方々は運転のアドバイスをしていただければと思います。
そのための準備は今からだって遅くないし、今後もできるだけ息の長い支援活動として、バイク側からのアプローチが可能ではないかと思うのです。
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