電動バイクに関する課題やら雑感やら
昨晩、WBS(ワールドビジネスサテライト)でも特集が組まれましたが、ホンダから電動バイク EV-neo が2010年12月に主に法人向けに発売されるとのこと。
新聞各社でも電動バイクに関する記事が報道されています。
報道にもある通り、ホンダは1994年に、すでに電動バイクのリース販売実績がありました。しかし、それは実験的なものに留まり、本格的な市販には結び付きませんでした。
その後ホンダ以外の二輪メーカーも含め、燃料電池や他の代替燃料による二輪車の開発が続けられたにも関わらず、本格的な移行につながらなかったのは周知の通りです。
内燃機関関連のパラダイムシフトに関して強いて言うなら、ここ数年で完全にキャブレターがフューエルインジェクションにとって替わったとのと、マフラーにキャタライザーが付いたことくらいでしょうか。
さて、電動バイクに関する課題やらなんやらを簡単にまとめておきますと。
【航続距離がまだまだ実用化の段階にない】
EV-neoに関しては、航続可能距離が満タン充電まで充電時間4時間で時速30キロで約30キロ。
急速充電20分で80%、航続可能距離は24キロとのこと。
原付自転車の利用実態は趣味ではなく、配達など業務・通勤・通学・買い物など実用が主ですから、ここで原付自転車の実用範囲を考えておきますと。
新聞配達の場合、一回の配達件数はだいたい100軒から150軒、配達距離は地域によって大きく異なりますが、約20キロから30キロ程度。
郵便配達の場合、1日の配達件数はだいたい200軒から300軒とのこと。配達距離は都市部で約50キロ前後、郊外や山間部だと100キロ程度とのこと。
(↑以上、個人的に取材した話と、ぐぐってみた結果を総合して書いてます。ソースはオレって感じですいません。)
いっぽう、個人的な需要として、通勤・通学・買い物だと、1日の走行距離はせいぜい15キロ以内。
(↑ソースはなんかの社会調査の結果。)
ですから、航続可能距離30キロと言いますと、新聞や郵便配達などの業務だと、昼休みに一回、事務所に戻って急速充電しなければならないかもしれませんが、通勤・通学・買い物など個人的な利用目的だと充分かもしれません。
【電池は性能が徐々に落ちる】
とはいえ、航続可能距離30キロというのは、新品時であって、電池の致命的な問題として、徐々に劣化して航続可能距離が短くなってしまうという問題があります。
自分は初期型のヤマハPASを所有していたことがあり、初期は約25キロ走れましたが、最終的には5キロも電池がもたなくなり、ただの重い鉄の塊のようになることもしばしば。交換電池も非常に高くて、あと1万円も足せばサンヨーエネループ自転車が買える、という状況がありました。
ガソリン車なら、性能が落ちたとしても、そこまで航続可能距離が短くなるということはありません。
やはり、新品時に航続可能距離が50キロくらいあって初めて実用化されたと言えるのではないでしょうか。
【出先のインフラが整っていない】
電池を使う電動の乗り物のもう一つの問題点は、出先でのインフラがまだ整っていないことです。
プラグインなら特別な装置が必要ということはありませんが、駅のトイレのコンセントで携帯電話を充電したら1円の電気代の窃盗なので逮捕……という世の中なので、うかつに人さまのコンセントを使うわけにはいきません。
コイン携帯電話充電器が一回100円だったりするのですけど、実際の電気料金はおそらく3円とか5円なわけで、そのようなボッたくり充電スタンドもいやだなあ、とはいえ、一回の充電に最低でも20分、満タン充電なら4時間かかるわけで、それだけの時間、停めておける場所の場所代が1回100円? 1時間駐車料金300円なので4時間なら1200円?? ガソリンなら1リットル120円くらいで原付ならリッター40~50キロは走るのになあ……などなど、インフラに関する問題点の連想ゲームは永遠に続きそうです。
インフラが整わない・インフラ整備に国が力を入れないというのなら、満タン充電で100キロくらい走れる性能は欲しいところ。
もし国が外出先の充電インフラを整えるとしたら、どの財源を当てることになるのでしょうか。ガソリン税から? 主にガソリン車の自動車の重量税から? なんかナンセンスのような。それでは電気代に税金を上乗せするんでしょうか。
嗚呼、いったいどうすれば……。
【中国で普及している2000万台は政策が背景にある】
WBSでも報道していましたが、中国では電動バイクが2000万台普及しているそうです。
それだけ電動バイク先進国なんだと勘違いしそうですけど、その背景には様々な政治的配慮があったりもして。
電動バイクが普及している多くの地域は、「ガソリンバイク」「ガスバイク」が禁止されています。よって、電動バイクしか販売できない・ナンバーを取得できないことになっています。
ガソリンバイクやガスバイクを禁止する大義名分は大気汚染の防止もあるでしょうが、中国の二輪車産業の保護、日系バイクメーカー製品の排除もあるかもしれません。
地域によっては、ペダル付き自走式(漕がなくても走る)電動自転車/電動バイクが自転車扱いになっていたりする(事実上、免許がなくても乗れる)ので、統計によっては自走する電動自転車も電動バイク普及台数に含まれるかもしれません。
このあたりは制度が複雑すぎるし、制度がちょくちょく変更され、よくわからないことだらけなので、今後も調査、勉強を続けます。
中国製の電動バイク/電動自走式自転車のバッテリーの多くは、日本のバイクに積まれている鉛のバッテリーで、使い捨て感覚だったりします。(実際には、鉛のバッテリーはリサイクルされるそうですが)
中国製電動バイクの価格の安さはバッテリーの安さにあるかも。
鉛のバッテリーは、99.999%リサイクル可能なので、電動バイクを普及させるには、従来の鉛バッテリー利用の電動バイクを作ってもよさそうなものですが、ネックはその重さですね。
【とはいえ、ニッポン製の電動バイクには大いに期待したい、なぜならバイクとはエンジンだけで出来ているのではない、タイヤもサスペンションもブレーキもフレームもひっくるめてバイクなのだから】
昨年のマン島TTレースの中で開催された、世界初のゼロ・エミッションバイクによるレース、TTXGP。事実上、電気バイクによるレースでした。
TTXGPを見て感じたのは、どのチーム(メーカーや大学の研究所など)も、バッテリーと電気モーターの開発には熱心ですが、サスペンションやブレーキなど足周りやフレームの開発には一切興味がないようでした。クラスによって異なりましたが、ほとんどが日本製のバイクのフレームや足周りを流用してレーサーを作っていました。
バイクは進ませる動力も重要ですが、それを支えるフレームや、停めるブレーキ、足周りの方も同じかそれ以上に重要だとわたしは思います。
日本製(日本の会社が開発したものという意味も含めて)のバイクはわずか30年ほどで世界を席巻したわけですが、その歴史を経てフレームや足周りのノウハウの蓄積たるや、4メーカー分もあるわけです。
電気モーターを積んだ「電動バイクのようなもの」が日本にも入ってきていますが、世界でもっとも厳しい品質や性能を裏付ける法律や認証制度などを経て市販される日本製のバイクに比べて、本当にそれは安全と言えるのでしょうか。
もしそれが「環境に優しい」を楯に安全性能をないがしろにするようなものであれば、それは偽ブランドバッグなんかより、よっぽど罪が深いと思うのです。
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