去る2009年11月26日(木)、自動車技術会の「二輪車の運動特性部門委員会」の企画で、「モーターサイクル新世紀 ─とりまく環境、研究の最前線─」というシンポジウムが行なわれました。
自動車技術会というのは社団法人なので、自動車工業会(自工会、JAMA)みたいなメーカーの集まりなのかと思っていたけどそうではなくて、日本学術会議に所属する、学術的な研究者・研究団体の集まりです。
自動車だけでなく、二輪車や、道路交通システム、交通安全技術などの研究者・研究団体も多く所属しています。
今回、楽しみだったのはTSRの藤井正和氏の講演。今日はその中から、藤井氏の講演の内容を書ける範囲で紹介します。
当日のプログラムは以下の通り。
【二輪車をとりまく環境】
「日本のモーターサイクル技術のイメベーション」 出水力 (大阪産業大学)
「二輪車の法制度の歴史と現状」 佐々木太一 (警察庁交通局)
「二輪車駐車環境 台北・ロンドン・ミラノ」 橋本 輝 (青峰社)
【二輪車研究の最前線】
「二輪車のモータースポーツ活動」 藤井正和 (テクニカルスポーツレーシング)
「二輪車の直線安定性に関する基礎理論」 片山 硬 (久留米工業大学)
「二輪車の運動特性部門委員会 WG活動報告」 景山一郎 (日本大学)
「二輪車のブレーキシステム動向と最新技術について」 谷一彦、西川豊 (本田技術研究所)
「二輪レース用車体開発のあゆみ」 高野和久 (ヤマハ発動機)
いやー、お腹いっぱい。最前線はこんなにもスゴイんだ、と、あらためて日本の技術力を思い知った次第。
さて、TSR、あるいはテクスポ藤井さんの講演はもっとも楽しみにしていたものでした。なにせ、数学モデルの数値解析などバイクのことでなければさっぱりわからないので。
藤井さんには、自分が鈴鹿8耐をやっていたころの思い出があります。
自分たちはカワサキユーザーかつ、プライベーターだったため、ピットはいつも1コーナー寄り。鈴鹿サーキットは1コーナーに向かって下っているのと、なぜかホンダ関係のチームはいつも最終コーナー側の1番ピット付近に固まっていたので、TSRなどのチームは“上の方のシマの人たち”という感覚で、われわれとは交流がほとんどありませんでした。しかし、当時の鈴鹿8耐はレギュレーション等が過渡期だったこともあり、何度も監督ミーティングやチーム/選手のブリーフィングが行なわれ、なんとなく互いの顔を見知るような雰囲気はありました。とはいえ、藤井さんとは挨拶程度しかしたことがなかったのですが、ある日、パドックですれ違うときになぜか藤井さんが「頑張ってるね」と声をかけてくれたのです。なんだか、“上の方のシマの人”に存在を認識していただけたみたいで、たいへん励みになったことを覚えております。
そんなこんなで、今回の講演。書ける範囲で(苦笑)要旨を抜粋してみます。
・世界の4メーカーがあるのに日本には「(バイクやモータースポーツ)文化」がない
・二輪マーケットがこれだけ縮小しているのに「社会問題」にすらならない
・(陸上の)ボルトには日本人は(体格的にも)勝てないかもしれないが、「道具を使う」あるいは「道具を作る」スポーツなら世界の頂点を目指せる
・今回は新幹線で(鈴鹿から)東京にやって来たが、これがもし鈴鹿からバイクで来たならば、「冒険」のような感動を感じられるはず。バイクにはそのような力がある
・(店の従業員やチーム員にサーキットでなくても)「道路に石が落ちていたら拾え」「油が落ちていたら拭け」と言っている。なぜなら、バイクは転んでしまうから
・予選でしかもたないようなチューンをギリギリでやっている。そうしないとホンダに勝てない!!
他にもいろいろと興味深いお話しはあったのだけど、ちょっとここには書けないので……。
講演の最後に質疑応答の時間があったので、わたしは前々から気になっていたことを訊ねてみました。
Q:「日本のロードレース界ではワークス/サテライト/プライベーターという枠組みがあって、これまで技術サポートや金銭サポートなどでメーカーとプライベーターは互いに協力し合ってきた。一方で、メーカーに頼ってきた構造が良くなかったという反省や批判もある。藤井さんはどのようにお考えですか」
A:「とにかく、他人のせいにしちゃいかん、ということです。
今の市販車のパーツは、昔のレース用部品と同じくらい良くなっている。だから、その中でどうしたらワークスに勝てるかどうか工夫をしていけばいいんです。
知りたいことはメーカーに聞きに行けばいい。われわれも、ホンダはもちろん、ヤマハだってスズキだって、ドゥカティだって聞きに行く。
メーカーは勝ちたいと思っているんです。というか、勝つためにレースに出てくる。だから、サポートと言っても、われわれに回ってくるのは、それ以下の予算だけ。ワークスが使う部品の2番手、3番手の部品だけ。だから、メーカーに勝つためには、それ以上の努力をしていかないといけないんです」
ロードレース界隈から離れたところにいる人たちにとって、いわゆるサテライトチームなどと括られるTSRも含めたトップチームのことを、ほとんどメーカーと対等とか、メーカーの力がじゃぶじゃぶ注ぎ込まれていると思っている人もいるかもしれないけれども、もしそうだとしたら、このような藤井さんの発言が飛び出すだろうか。
1位には1位のジレンマがある。それを知ることができたのが収穫でした。
二輪車の定常旋回特性をどう評価するか、のモデル理論と実験検証を行なった影山先生の発表もかなり面白かったので、それはまた今度。