初めにお断りしておくと、わたしは今回の「オリンピック候補地に東京立候補」についてはたいへん冷めた目で見ていた。地元が横浜だということもあるし、横浜がかつてオリンピック目当てに横浜国際プールや国際競技場を慌てて作ったものの招致に失敗したこととか、東京の道路がさらに混むのはいやだなあとか、一回東京でやってるしアジアでは北京でやったばっかりじゃんというのもあるし、築地市場はやっぱり築地だよねとか思ったり、なんだか他人事ではあった。それでも「東京オリンピック反対!」とか掲げてこなかったのは、基本的に「嫌い」とか「NO!」とか「欺瞞だ!」とか人様に対して感情的にネガティブなことを吐くのが自分のやり方ではないからである。ものごと、「なんでこの人はこんなこと言うんだろう」「何かやり方があるのではないか」「そのためにはどのようにしたらいいのか」といつも考えている。日和っているわけではなく、全体を見通して(これを“俯瞰で見る”という比喩は間違っているのだろうか?)その上でどうしたら最大公約数になるのかと考えてみる。たいてい、考えるだけだけど、たまには「面白そうだなあ」と思うことには関わってみる。関わってみるというのは、自分が体験してみる、ということである。自分が体験するというのにもやり方とか立場があって、わたしの場合、多くは「参加者」とか「観客」として関わる場合が多い。初めっから「中の人」として関わった方があれこれ自分の思い通りになるのかもしれないし、内部事情を把握しやすいのかもしれないけど、内部事情を知らない観客やら地域住民やらの動きや意見もまた現実である、と思っている。だから、出来るだけフラットな意識でものごとにあたるために、なんとなく距離を持ちつつ関わったりしてみる。中の人になってしまうと伝える活動がしにくくなるというのもある。だから、いろんな立場で関わってみる。例えば、鈴鹿8耐への関わり方がそれだった。初めは取材者としてチームの密着取材。合間に観客として観戦。次にレース全体のレポート。そしてチームとして山の麓からの参戦。そして再び観客として観戦。テレビ観戦した年もあった。いろんな関わり方をしてみることで、ものごと全体が把握しやすくなるんじゃないかと思っている。そのようにして、一つのイベントや土地やものごとに定点観測的に関わっていると、そんなわたしのことを人は「全面的な推進派」とか「全面的な賛成派」だなんて思う人がいるらしい。どんなことにも、それはいいことだよね、と思うことと、それはあんまりうまいやり方じゃないよね、って感じることが入り混じっている、と思う。その一つ一つについてそれぞれ思うことはあるんだけど、それを全て伝えればよかったのかもしれないけど、なかなか難しいよな、とも思う。ここまで枕でやっと本題に入りますけれども。
東京がオリンピック候補地に落選するまでの報道を見ていて一番思ったことは、「あ、石原都知事の背後にいる人たち、見たことある人ばっかだ! 」ということだった。2006年のマン島視察のときや、その後の三宅島モーターサイクルフェスティバルに関係していた都庁や警護や通訳の人たちが一部そのまま、オリンピックに関わっているというのを発見したとき、オートバイによるまちおこし事業というのを東京都はほんとうに力を入れて考えてくれていたのだなあ、と思った。ここで改めてエクスキューズしておくと(そんなこといちいちエクスキューズしておかないと、勝手に想像のイメージだけで間違った情報が一人歩きしてしまう困った世の中である)、わたしは石原慎太郎という方を政治家として推進しているとか、小説家として好きだとか、人としてカッコイイと思っているだとか、そういうことは全くないです。どこが嫌いとか、なにがいかがなものかとかここでは書かないけれども、石原氏全体として肯定してはおりませんので皆さま勘違いしないでいただきたい。と、初めから書いておけばよかったのだろうか。
ただ、日本国の首都の知事としてオートバイをコンテンツにしたイベントをやろうと言っていることに関しては「面白いなあ」と興味深く追いかけていたのは事実である。それは、石原氏の人間性への興味ではなく、これまで行政によって虐げられてきたオートバイ業界に対して、地方自治体の首長がYESと言ってくれている「事象」に対しての興味、である。
東京は紛れもなく日本国の首都だし、世界的にみても(いろんな意味で)もっとも大きな都市だし、そんな大都市・首都東京に集まってくる都庁職員というのは、他の地方自治体の役人とはかなり違ったスタンスの人が多いように思う。ある意味、国を背負うぞと高い目的意識を持って国家公務員一種試験に合格するような人たち。だから、案外、東京以外の出身者も多いと聞く。その東京が満を持してオリンピック最終選考に残ったのだから、最終的なプレゼンは面白いことになるなあとは思った。
最近の東京マラソンにしても、もう地方活性化のための「いちスポーツ」という意義を越えているように感じる。すでに商業化した「メディアスポーツ」の域に達していて、やり方によっては他の都市でも同じような展開ができるかもしれない、とは思ったけど、東京マラソンが成功した一因には、「都市という景観が生み出すスペクタクル(壮観さ)」である。東京タワーが見えて、超高層ビル群が見えて、それでいて浅草界隈をかすめ走る。公道を使うスポーツの醍醐味の一つは、そのような「景観」を背景にスポーツを溶け込ませることで生まれる「スペクタクル」である、と言える。
だから、安全に配慮して、とか、警備が楽だからと言って、のどかな郊外だとか、全国どこに行ってもあるようなナショナルブランドの店(たとえば靴流通センターだとかユニクロ、しまむら)や飲食店(牛丼、ファミレス)が立ち並ぶような地方都市でスポーツを行なっても、なかなかスペクタクルが生まれるまでに至らず、結果、世界的に知られるようなイベントには成り得ないのである。あるとすれば、例えば京都マラソンだろうか。
さて。
東京のお台場あたりを東京臨海副都心地区というそうだが、埋め立てたもののいまだに広大な空き地が多いのは、青島都政時代に都市博を中止したからだと言われている。原因はそれだけではないと思うけれども、最近はその空き地を活用して、X-GAME、エクストリーム系のスポーツイベントが開催されたりしている。三宅島モーターサイクルフェスティバルのプレイベントもお台場フジテレビ前特設会場で大々的に行なわれてきた。しかし、オリンピック招致が決まったらここは使えなくなる、という情報も聞いた。
都心にこれだけ広い土地があって、騒音や渋滞などの問題が比較的、露呈しにくい場所は東京では他にはない。(地方都市ではたくさんあるのかも)
そこで、東京臨海副都心エリアを全面的にレッドブルに貸し出してしまうというのはいかがだろうか。
レッドブルとは、カフェインや各種栄養素がたっぷり入った、いわゆる「エナジードリンク」である。そのエナジードリンクを全世界で販売促進するべくとっている施策が、「エクストリームスポーツ」の主催・後援である。
レッドブルが主催・後援している主なエクストリーム系スポーツは以下の通り。
AIRIAL MOTORSPORT
AEROBATIC FLYING
AIR RACE
AIRBORNE
ALPINE SKIING
B.A.S.E. JUMPING
CLIFF DIVING
FREE CLIMING
FREE SKIING
ICE CROSS DOWNHILL
KITESURFING
LUMILAUTAILU
MOUNTAINBIKE FREESTYLE
MULTIPULE SPORT
urban XROSS
X-ALPS
STATEBOARD STREET
SKY JUNPING
SNOWBOARDING ALPINE
SNOWBOARDING FREESTYLE
SNOWMOBILE
SURFING
X-FIGHTERS(FREESTYLE MOTOCROSS)
WINDSURFING
もう何がなんだか。もはや名前からどういうスポーツか想像するのが難しいものすらあるけど、だいたい、そんなことするとお母さんか警察に怒られますよ、というスポーツだと思っておけば間違いない。
マン島滞在中はこれらのエクストリームスポーツをSKY-TV(衛星の有料多チャンネル放送)でよく観ていた。
フリースタイルモトクロスの世界選手権であるX-FIGHTERSやエアレースの開催場所はもう、狂ってるとしか思えない(←ほめ言葉)。たいてい市街地にある歴史的な場所やシンボリックな場所が選ばれていて、その場所選びも競技開催地選定の重要なファクターになっているようだった。
お台場ではかつてF1開催が模索されたとのことだけど、今年はレッドブルが大阪城前でF1のデモンストレーション走行を行なった。近年、F1は公道レース回帰が見てとれるけど、これはもちろん、「都市という景観が生み出すスペクタクル」を求めてのこと。都市部でやると観客が入るから、ではない。その証拠に、シンガポールGPではコースサイドにほとんど観戦場所がなかった。これはもう完全に画像として配信するためのF1である。これぞ、メディア・スポーツである。
まあ、そんなこんなで、F1もエアスポーツも、フリースタイルモトクロスも、みーんなまとめて東京でレッドブルX-SPORT月間とかやればいいんじゃないかな。東京湾だと波と風が頼り無いので、伊豆七島も巻き込んで。
東京都はあくまでレッドブルに場所貸し、というスタンスにしておけば、安全性云々の問題も回避できるし。
とか考えてたら、10月11日にお台場の「夢の大橋」で公道レースをレッドブルが開催するそうだ。RED BULL BOX CART RACE。
参加費、観戦無料。坂道を利用して無動力のクルマを走らせる。これは危険だっ!! (「ヤバい」という語法と同じ意味)
レッドブルがなんでこんなにエクストリームスポーツとかモータースポーツに力を入れているかというと、わたしなりの解釈はこう。1970年代ごろからメーカーのワークスチームではなく、レーシングチームとしてのモータースポーツ参戦が増えてた。しかし、モータースポーツ参戦にはたいへんお金がかかるので、スポンサーが必要になってくる。そこでスポンサードしたのが、嗜好品としてのタバコ会社である。あるいはビールやウイスキー、スピッツなどのアルコール会社だったかもしれない。ともかく、タバコ会社とモータースポーツの蜜月は20世紀末まで続いた。一方で、世界のコンシューマー向けの大資本はコンツェルン化が進んだ。ところが、世界的に健康、health&safety指向になってきて、タバコの広告が禁止され始めた。そこでコンシューマー向けコンツェルンが目を付けたのが、カフェインドリンクという嗜好品である。幸い、カフェインは量の規制はあるけれども、一般的に量さえ守れば健康被害はさほど取り沙汰されてはいない。しかも、依存性もある。しかも、タバコやお酒と違って販売の年齢制限がない。というわけで、世界のコンシューマー向けコンツェルンがエナジードリンクに資本を注入し始めた……というのがわたしの個人的な見解であって本当かどうかはわからない。
それはともかく、イギリス圏でのエナジードリンクの浸透ぶりはすさまじいものがあった。パブで夜、ビールが飲めない(アルコールがダメ)人はお酒の代わりにエナジードリンクを飲むといった具合。若者のオシャレな飲み物として浸透している。エナジードリンクの銘柄はレッドブルだけではない。
・RELENTNESS(NO HALF MEASURE)
・MONSTER ENERGY
・ROCK STAR
・NO FEAR
・BUZZ
……などなど、モータースポーツ関係のスポンサーの名前として見たことがあるブランドがあるのではないか。
最近は、飲み物としてのエナジードリンクだけでなく、「エナジーガム」「エナジーバー」「エナジーパウダー」など、進出に暇がない。
こんな風にして、特にイギリスでは大流行りのカフェインたっぷりエナジードリンクだけど、子どもも大好きエナジードリンク、カフェインの興奮作用なんか気にかけない親などは夕飯のお供にエナジードリンク、みたいなことになっちゃってて、子どもが夜11時ごろまで騒ぐ、叫ぶ、飛び跳ね続ける、という現場に出くわしたこともある。そりゃ1本500mlのエナジードリンクには200mgくらいカフェインが入ってますから寝ませんて。
あるイギリス人と「茶道」の話をしていて、「なんであんなに苦いものを飲むのだ?」「なんでめんどくさいお作法を要求されるのだ?」と聞かれたので、あれは、カフェインの脳神経にケミカルな作用を味わうために、究極に余計なものや動作を削っていた結果なのだ、エナジードリンクでぱっと目が覚めるでしょ、昔の人はそのカフェインの作用をマリファナとかと同じくケミカルな身体変化と捉えて愉しんでいたのだと思う、と説明してみたら、妙に納得されたことがあった。
まあ、カフェインの功罪はともかく、今、消費者向け製品を作っている企業のうちもっとも勢いがあるのはレッドブルをはじめとするエナジードリンク会社だと思うので、東京の経済効果を狙うんであれば、東京臨海副都心地区の命名権をレッドブルに売ってみるとかしてもいいんじゃないかと妄想している場合じゃない月曜日なのでした。
東京都江東区レッドブルXファイター1番地1号、とか。