G-FP2DF1P69Y ヘルメット論争: 小林ゆきBIKE.blog

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2008.05.02

ヘルメット論争

こんなことを思い出したのですけども。

「様々なリスクの中で何を問題視するかというランクづけが,国によっても,また専門家か一般の人かによっても異なる」[木村 2005: 95]

孫引したのはメアリー・ダグラスという社会学者のことば。

で、そういえばヘルメットについての見解はひとによってまったく異なるなぁと思い出しまして。

わたし自身は常にフルフェイスのヘルメットを被ります。理由はいくつかあって、

・過去、自分が転倒したときにヘルメットを見るとたいがいアゴの部分に傷が入っている。よって、ジェットタイプだと自分の顔を守ることができない、と考えている。

・ヘルメットは命を守る最終手段だと思っているので、最大限防護できるものを被りたい。

・口腔外科に入院していたとき、男性病棟に入院している患者の半分がケンカ、半分はバイクの事故でアゴを粉砕骨折している人で、(ちなみに女性病棟は骨髄炎や舌癌がほとんど)顔からニョキニョキとトラス構造に生えているフレームを見て、こうはなりたくないなあ、と思った。

・バイク便で働いているとき、少し歳のいった(と言っても当時40代だったと思う)の先輩が、「俺の顔は変わっちゃったんだよ~ジェットヘルかぶってて事故してアゴが半分なくなっちゃったから、骨を移植して歯は総入れ歯になってかっこよくなった♪」などと武勇伝(?)を語るのを聞いて恐ろしく感じた。

などなどです。まあ、自分はそうなりたくない、顔が粉砕骨折、総入れ歯なんて嫌だなぁ、という感情でしかないんですが、ともかく、雑誌のインプレの仕事やなんかでスクーターに乗るときでも、編集者に「スクーターにフルフェイスはおかしい」と言われようが、フルフェイスを被ります。ポリシーなんです。


ところで、フルフェイスとジェットヘルメットの安全性について、バイク仲間同士で論争になったことがありました。

[フルフェイス派の意見]
・事故に遭ったときに命を守るためのものだから、最大限に防御できるフルフェイスを被るのが望ましい

[ジェット派の意見]
・フルフェイスは視界が狭い。ジェットの方が広い。そもそも事故に遇わないように視界が広いジェットを被るのが事故防止に役立つ


物理的な安全性についての議論もありました。何年か前に朝日新聞の1面に出てた問題記事には、

フルフェイスは首の骨折を促しやすい構造(俗に釘抜き状態とも言うらしい)なので危険

というような論調でした。

対してジェットタイプはどうか。はたまた、耳が出ている半キャップ型はどうか。乗車用ではないヘルメットはどうか。事故の形態やスピード、路上構造物の有無によっても結果は異なると思いますが、フルフェイスより怪我をしやすいと考えるのが自然ではないでしょうか。


以上は物理的に怪我を負いやすいかどうかの視点ですが、社会的な視点ではどうでしょうか。

フルフェイスヘルメットでの入店はご遠慮ください

という張り紙が日本のコンビニやスーパー、郵便局や銀行で貼られるようになって久しいです。
理由は、強盗かどうか判断しにくい、もし犯罪者だった場合、顔を目撃・記録することができない、というようなことだと思います。
この視点はつまり、ヘルメットは事故のときに頭部を守るものではなく、「顔を隠すためのもの」、「匿名化する道具」である、といえます。

あるいは、アジアのどこかの国で「フルフェイスヘルメット禁止」になった国があるとかつて新聞で報道されていたのですが、理由は「フルフェイスは飛ばすイメージがある」というようなものでした。
似たような論争はかつてのバイクブームのイギリスでもあって、戦後、ヘルメット装着義務付けにあたって、ヘルメット装着はむしろスピード違反を助長するなどという意見もあったらしい。

つまり、「イメージ」でフルフェイスが禁止されるわけです。

それでは、ヘルメットそのものを被るとか被らないとかいう議論はどうか。
日本でノーヘルを見かけると、極悪不良少年とか暴走族とか、とにかく犯罪者を見るような目でしか見られないわけですが、国が変わればノーヘルが合法になってたりもするわけです。


例えば、アメリカのいわゆるヘルメットロー、つまりヘルメット装着義務の有無は州ごとにこうなっています。

Helmet_law

(50state Helmet Lawより)
赤いところがヘルメット義務の州、それ以外は条件の有無はありますがノーヘルOKの州です。

資料が2001年とちょっと古いので、今はこれよりも装着義務なしの州が増えているかもしれません。

これに対して、ヘルメット装着義務なしになった州(たとえばやフロリダ)ではバイクの死亡事故が増えたとする報告もあります。

さて、話を日本に戻しまして。

2wheel_inj

警視庁の資料によれば、都内の二輪車乗車中の死亡者の事故損傷主部位は頭部が40%以上を占めています。

この結果を見ても、結果として頭部損傷が致命傷になったことはわかるんですけど、ヘルメットそのものが頭部を損傷させたのか、それともヘルメットが脱落してしまった結果、あるいはヘルメットが正しく防御できなかった(たとえば乗車用ヘルメットでなかった場合とか)なのかわかりません。

乗車用ヘルメットを顎ひもも含めて正しく装着していた結果なのか、どのような形状(フルフェイスなのか、ジェットなのか、半キャップなのか、乗車用でないヘルメットだったのか)だったのか、ヘルメット脱落の割合はどうなのか。そのあたりの詳しい資料と分析が必要なのではないかと考えます。


人にはいろいろな考え方があってそれを尊重したい。リスクを知った上で、あるいは十分な保険に入っている上で、あるいは普段からライディングスキル磨いているんだ、という人が、快適な方が安全につながるからジェットヘルがいいというのはそれはそれでかまわないと思う。
だから、わたしは(あなた)にフルフェイスヘルメットを被れ!とは言いませんが、わたし自身は、いろいろな統計の比較や、いろいろなリスクの比較、自身の経験、多数の死亡・重体・重傷事故の目撃経験を通じて考えた上で、フルフェイスをかぶります。


++++++日乗++++++

あ、あとコンタクト使用者だからってのもある。

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