それではなぜホンダは法をおかしてまで研究開発を急いだのでしょうか。前回の当ブログの記事に対して皆さんから貴重なコメントをいただいた。それをヒントにさらに調べてみました。と言ってもただいまマン島に滞在中ですのでインターネット上でわかる範囲でのものですが。
すると、道路運送車両法の中で以下の申請を国土交通省にインターネット上で申請できるということが検索してわかりました。
試作自動車又は試験自動車の認定申請
車台番号又は原動機型式の打刻をする者の指定申請
自動車の型式指定申請
自動車の型式認定申請
そのうち、試験自動車認定は、道路運送車両の保安基準第56条第4項の規定による 、ということまでわかりました。しかし、申請書の形式やオンライン申請の方法はわかったのですが、認定されたあとにどのようなナンバーが与えられるのか(与えられないのか)、もし試験車両・試作車両用のナンバーが発行されるとして、何台分まで発行されるのか、1台ぶんだけなのか100台分なのか、さらに試作車・試験車の保険加入制度についても、インターネット上で私が探してみた範囲では判りませんでした。
今回の事件が起きた可能性として、試作・試験車両用のナンバーが合法的に発行されると仮定して、
1・公道テストに必要な台数分発行されなかったから
2・時間的に試作試験車用ナンバーの発行が間に合わなかったから
3・怠慢?黙認?慣例?
事実は警察が明らかにしていくことでしょう。
ちなみに事件報道前後のホンダの株価はこんな感じ。大勢に影響なかったみたいです。
道路車両運送法については、総務省行政管理局のe-Govというサイトで全文検索することができました。以下、長いですが同サイトからの引用抜粋です。
第五十六条 製造又は改造の過程にある自動車で法第三十四条第一項(法第七十三条第二項において準用する場合を含む。)の臨時運行の許可又は法第三十六条の二第一項(法第七十三条第二項において準用する場合を含む。)の許可を受けて運行のように供するものについては、工場と工場、保管施設若しくは試験場との間又はこれらの相互間を運行する場合に限り、本章の規定のうち当該自動車について適用しなくても保安上及び公害防止上支障がないものとして国土交通大臣が告示で定めるものは、適用しない。
2 前項の自動車には、第三十七条第一項本文又は第三十九条第一項本文の規定にかかわらず、尾灯及び制動灯を後面にそれぞれ一個ずつ備えればよい。
3 法の規定による検査等により本章に定める基準に適合していないことが明らかとなつた自動車又は故障若しくは事故によりこれらの基準に適合しなくなつた自動車については、これらの基準に適合させるため整備若しくは改造を行う場所又は積載物品等による危険を除去するために必要な措置を行う場所に運行する場合に限り、当該基準に係る本章の規定は、適用しない。ただし、その運行が他の交通に危険を及ぼし、又は他人に迷惑を及ぼすおそれのあるものにあつては、この限りでない。
4 国土交通大臣が構造又は装置について本章に定める基準の改善に資するため必要があると認定した試作自動車又は試験自動車でその運行のため必要な保安上又は公害防止上の制限を付したものについては、当該構造又は装置に係る本章の規定は、適用しない。
さらに、試作自動車・試験自動車や型式認定・型式指定を受けられるメーカーは国土交通省が認定したメーカーでなければできない、ということも見えてきました。“第五の二輪車メーカー”や光岡自動車に至る難しさはこのあたりにありそうです。
さて、長々と前置きを書きましたが、研究開発と国益と法律の壁~ホンダ事件のエントリーの中で、朝日新聞の報道によれば
空気が薄い高地での走行試験
をホンダ側は理由に語っていたといいます。なぜだろう、と考えているときこんなニュースを思い出しました。
国土交通省のプレスリリース
「二輪車の排出ガス基準を強化しました」
国土交通省は、本日、小型二輪自動車、軽二輪自動車及び原動機付自転車(以下「二輪車」という。)の排出ガス基準を強化するため、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(平成14年7月15日国土交通省告示第619号)等を一部改正し、即日施行しました。
今回の排出ガス基準の強化は、中央環境審議会第6次答申に基づくものであり、これにより我が国の二輪車の排出ガス規制は世界で最も厳しいレベルのものとなります。具体的には、今回の強化により、排出ガス規制値が従来と比較して、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)については車種により75%~85%削減、窒素酸化物(NOx)については50%削減されます。
報道されているニュースへのリンクはこちら。
国立環境研究所のEICネット
日経BP
バイクテル
二輪車の排出ガス規制について、現状はJAMA・自工会・自動車工業会のサイトを参照してみてください。(以下、同サイトから抜粋引用。太字は筆者による)
日本と諸外国との規制値の比較は次の表のとおりで、日本の場合、諸外国に比較して規制値が厳しくなっています。また、諸外国の場合は「工場出荷時(認証試験時)」の測定値で規制しているのに対して、日本の場合には車種によって6,000km~1万2,000km走行後の測定値も下記の規制値をクリアするという耐久性も求められており、世界でも最も厳しい排出ガス規制となっています。
マフラーなどアフターパーツメーカーの団体であるJMCAのサイトも参考までに。
90年代までの日本製のバイクはほとんどエンジン焼き付きを気にしてか濃いめのキャプレターセッティングとなっていましたが、フューエルインジェクションが普及してきたことと前回99年頃の排ガス規制で、インジェクション車もキャブレター車も大幅に薄めのセッティングへと変わってきました。
それが、さらに厳しい排出ガス基準に合致させなければいけないのですから、高地での試験走行は必要なことだということは理解できます。日本は狭い狭いとはいえ、標高差は最大2000mほどにもなります。気圧を変化させることができる実験室があっても、実際の走行で得られる数値は比較にならないほどたくさんのデータを得られることでしょう。
この世界一厳しい排ガス規制を世界に先駆けてなぜ日本で導入するのでしょうか。
理由は京都議定書にあると私は考えています。
京都議定書の和訳を参考にしてみてください。京都議定書とは、正式名称を気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書というのだそうです。
京都議定書とはなにか。簡単に言うと、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減を先進国に求める国際条約、なのですが、アメリカが受け入れを拒否という現状になっていて問題山積みです。詳しくは下のサイトを参考までに。
はてなの京都議定書の説明
環境gooの京都議定書のコーナー
ウィキペディアの京都議定書の内容
で、地球温暖化に大きく悪影響を与えているものの一つとしてガソリンエンジンの乗り物が挙げられます。
日本は世界の中でもトップクラスの生産台数を誇る自動車産業を持っているのは周知の通り。
(最近では現地生産が増え、単純に生産台数=世界のシェア、ではなくなってきていますが)
その自動車産業で、京都議定書に批准させた基準を持つ自動車や二輪車を開発生産することは、単純に輸出産業でのシェアを高めるというだけでなく、技術的なイニシアチブを持つことができると考えられるわけです。
そういう意味で、京都議定書に先駆けた世界でもっとも厳しい排出ガス規制を日本国内で先行して法律で施行実施させることは、結果的に国策として利益をもたらすことになる、と衆議院総選挙の熱も覚めやらぬ日本国は考えていると思われます。。
「空気が薄い高地での走行試験」は、「世界初」「世界最先端」にこだわるホンダならではの事件だったのでは。
さらに言えば、京都議定書批准モデルの開発だけでなく、来る10月に開催される東京モーターショーでのニューモデルの発表のため研究開発を急いでいた、という背景があったのではないでしょうか。