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2007.06.10

バイクで死ねれば本望か?

100周年を迎えたマン島TTレース全日程が終わった。決勝レース最終日までは奇跡的に割と平和なTTウィークだった。

決勝ウィークに入り、ここ3年続いている好天に。マン島の5月の平均気温は史上最高だったそうで、今も連日最高気温19度前後と、おととし8月9月の夏に来たときより格段に暑い。半袖でいられるマン島TTウィークなんて。

さすがに100周年だけあって、早朝から深夜まで多忙が続き、マン島TT日記が追いついていない。いつも後半はこんな調子なので、今日明日の残り二日、グレンかカフェにでも行って日記を付けることにしよう。

ヘヴィな続きは以降に。

今年のマン島TTレースに行く直前、カウンセラーをやっている知人(バイクには乗らない女性)がこんなことを言っていた。

「でも、ライダーってみんな“バイクで死ねれば本望”なんちゃうの?」

そんな人はまずいないよ、と全力で否定しておいた。心理カウンセリングを職業としているのにそんなこと言うんだなあ、と、ちょっとびっくりしたからだ。

ライダーは皆、「自分だけはバイクで死なない」と思っているのではないか。
それとも、本望と思っているライダーが本当にいるのだろうか?

わたし自身はこのごろ、きょうバイクで死んだらいやだな、だから……と毎日必ず考えてバイクに乗ることにしている。好きなバイクで死ぬようなことがあったら自分が恥ずかしいし、必ず人に迷惑をかけると思うからだ。
もちろん、バイクで亡くなった方々をどうこう言っているわけではない。自分自身の考え方である。
そして、こう思いながらも生きている。

「今日、バイクで死ぬかもしれないし、別の理由で死ぬかもしれない」

残念ながら「死因」にはヒエラルキーがある。それは文化人類学的にも明らかで、未開の地でも古くから、老衰>病気>事故、というヒエラルキーが存在するという。
その順位は、遺されたものたちの心の準備の時間の長さ、衝撃の大きさに比例するのではないかと考えられる。
死のヒエラルキーとは、遺されたものにとってのヒエラルキーなのである。

実際には、死の種類によってその人の「生」の重みが変わるものではないのに。

TTのように死に近い危険なスポーツに挑むときですら、自分自身だけは死なない、自分の家族だけは、自分の友だちだけは、とみんな思っていると思う。

あるライダーはセニアTTのスタートレーンで天を仰ぎながら十字を切っていた。あとは神のみぞ知る。
カメラを構えつつも、このときばかりは平静な気持ちではいられなかった。つまりは、自分が悲しい思い、辛い思いをしたくないだけなのかもしれない。

もしなにかあったとして、自分の中で区切りを付けたり、落ち着きを取り戻すにはどうすればいいのか。要は、自分の気持ちの中を整理すればいいことではあるが、関係者は気持ちよく追悼させてくれよ、とも思う。もちろん、極東ブログのこの記事に書いてあることは慮るとして。

話は飛ぶが、ナントカ還元水の方の件に関し、石原慎太郎東京都知事の「サムライ」云々発言についていくつかのブログを読んで複雑な気分になった。小田嶋氏のブログ偉愚庵亭憮録などである。あのサムライスピリッツがどのような意味で使われていたのかは知らないけれど。

マン島に通っていると生と死について深々と考えさせられる。
こんな話を思い出した。
とあるサーキットで(マン島ではない)これから走るライダーに初対面の事情通が
「そんなタイヤじゃ死んじゃうよ!」
とアドバイスしたそうである。そのサーキット特有のタイヤチョイスがあるのだという。
レースが終わってそのライダーは憤慨しつつ愚痴をこぼしていた。
「走る前に死ぬ死ぬ言うな!」

ごく親しい知人に、バイクで別れ際、こんなことを言われてドキっとしたことがある。
「絶対バイクで死ぬなよ!」
そのときは悪い気はせず、むしろ気が引き締まるものだった。

危険であるところのレースに挑むライダーに、生死を意識させるような発言をしていいものか、いけないものか。親しさの度合いにもよるのかもしれないが、わたしは「気をつけてね」以上の言葉をかけられない。本人が一番よくわかっているはずだからだ。そして、誰も恨まないはずだ、と思うからだ。逆に、親しい人から生死を意識させるような言葉をかけられれば、どれだけ自分のことを思ってくれているのか知ることができ、悪い気はしない。

レース中、ライダーは自分自身の生死のことよりも、路面状況、マシンのコンディション、自分の身体のコンディション、精神面のバイオグラフ、回りの状況、自分の走り、等々に集中すべきで、それをするには余計なことを考えない、考えさせないことが大事だと思う。

マン島にガードレールはない。正確に言うと、あるにはあるのだが、日本のように、クルマから歩行者を守るという考えの頑丈なものではなく、歩行者がところかまわず道路横断しないよう遮蔽するためのものならある。山道で崖にクルマが転落しないように設けたガードレールもない。羊が逃げ出さないための有刺鉄線や石垣ならばある。ヨーロッパはだいたい同じような状況だと思う。だから景観がきれいなのか、とは池田伸氏の言葉。

マン島は5月から9月のモータースポーツシーズン中、島のあちこちで

MOTORSPORT CAN BE DANGEROUS

の看板が立っている。
日本ではあまりいいイメージではなくなった、「自己責任」、つまり、OWN RISKなのだ。誰が責任を取るとかいう話ではない。好きで観に来ている以上、好きで参戦している以上、好きでボランティアをしている以上、何かあっても自己責任なんだよ、と事前に促している。そして、それに従ってTTレースは100年を経た今も続いている。

今年のTTレースは奇跡的とも言っていいほど、重大事故が少なかった。火曜日のレースでニュージーランド人でTTスターのショーン・ハリス選手が重体となっているが、幸いにも死者は出ていなかった。
ところが、最終日の8日金曜日。セニアTT2周目でジョン・マクギネスが1周のラップタイムのアベレージ、時速130マイル(=約208km/h)のコースレコードを叩き出したあと、5周目に急激にタイムが落ちたので何かあったかなと思ったら。そのあとのチャンピオン・ラップのスタートもかなりディレイし、2003年や2006年のことを思い出す。
夕方の公式発表で、26マイルストーン(ジョイズ)のあたりで、ニューカマーのライダーが転倒、二人の観客と二人のマーシャルに突っ込み、ライダーと一人の観客は即死、もう一人の観客は病院で死亡が確認され、マーシャル二人は怪我を負ったとのことだった。

TTの歴史上の正確な経緯は帰国してから確認するが、確か観客を巻き込むような事故は100年のうち数回しかないはずで、いっぺんに3人というのはTT史上初めてではなかったかと思う。
確率としては非常に低い事故なのだが、よりによって100周年のTTで起きてしまった。

それでも、と思う。

本当に楽しんでるな、と自分が実感している瞬間を再び味わうことが今年も出来た。去年はもう二度と楽しめないのではないかと思い込んでいた。
事情を知らない人が、迂闊に去年のことやら事故のことやらいろいろなことを言葉に出す。
わたしが日本人だからか、いろいろ事情を聞こうとする人もいる。
それはそれでいちいち辛いけれど、見ない、聞かない、考えない、という術を身につけつつある。他人事として聞き流すのだ。

会う人会う人、初対面、知人に関係なく、「楽しんでる?」と挨拶代わりに聞かれる。
そりゃあ、心から楽しんでる瞬間もあれば、思い出して悲しくなったり辛くなったり具合が悪くなったりしているときもあるが、そう聞いてくる人はその人自身が楽しんでいるのだから、TTを楽しみに来ているのだから、こちらの事情は心に仕舞って、「ええ、もちろん!」と答えることにしている。そうしているうちに自分自身もだんだんエンジョイモードに戻ってくる。

いちいちエクスキューズするのもなんだけど、リスクを忘れるとか死者や事故を忘れるということではない。

2004年、2005年に続いて3回目のラップ・オブ・オナー自力参加となった宇野順一郎さん。無事走りきり、満面の笑顔でピットに戻ってきた。心の底からほっとした。

日本人ペアとしてサイドカーに初参戦した渡辺/吉田組。AレースもBレースも完走することか出来た。心の底からホッとした。

日本人唯一のTTレース優勝者、スズキの伊藤光男さん。走る前は当時を思い出すのか、時折やや険しい表情を見せるのが印象的だったけれど、無事、チャンピオンラップを当時のマシンで走りきり、その晩はそれこそ満面の笑みで、奥様も初めて聞いた話ばかりという思い出話が深夜まで続くのだった。重みとはこういうことかと実感する。

昨年、偶然出会って仲良くなった、タクシードライバーのフィル。今年のTTは一説によれば100チーム単位でエントリー不受理となったそうだが、フィルも蹴られてしまっていた。しかし、マシンが壊れたチームのライダー変更という正当な方法で出走することができ、無事にスーパースポーツジュニアを完走することができた。彼の20年に及ぶTTチャレンジの引退レースである。

ステイ先の同宿のイギリス人が昨日、グースネックでハイサイド。転倒して鎖骨を折ったと言ってしょんぼりしながら帰ってきた。正直、笑ってしまったけれど、本音は骨折ぐらいで本当に幸いだったね、と思った。

11年前から温めてきた100周年のTTレースを見届けようという夢は実現し、私なりのTTウィークは間もなく終わろうとしている。

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