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2007.04.22

石原慎太郎のバイク小説『飛べ、狼』

Tobeookami

別冊文藝春秋 89特別号(1964年=昭和39年9月)に掲載されている石原慎太郎の小説、「飛べ、狼」のコピーを手に入れた。
前々から石原氏がかつてマン島TTレースに絡んだオートバイのロードレースにまつわる小説の存在があることは知っていたが、単行本化されていないようで入手が難しかった。

※追記:講談社(1966、1968)で同名タイトルの単行本が発行されていました。mixi経由で情報発見。ありがとうございます。

現在刊行中の「石原愼太郎の文学」シリーズには収録されるのだろうか。

別冊文藝春秋に掲載されていることはわかったので、バックナンバーをどうやって探すかだが、こんなとき学生は便利だ。私が所属している東洋大学130万冊もの蔵書を誇り、そのほぼ全部が開架式、つまり自由に無料で(学費を払っているのだから当たり前だが)閲覧することができる。幸い、文学部が通っている白山キャンパスなので、あっさり図書館で昭和39年の雑誌が見つかった。
紙は茶色に変色していたが、保存状態はよい。

表紙には

小説 天城山心中 有馬頼義

飛べ、狼〈120枚〉石原愼太郎

の2作しか紹介されていない。いかに期待の新作だったかがわかる。

1964年と言えば、マン島TTや世界グランプリでホンダやスズキ、ヤマハ、トーハツが活躍しはじめ、ホンダは四輪のF1に参戦し始めた年でもある。
鈴鹿サーキットと富士スピードウェイという本格的、国際的なサーキットが相次いでオープンした頃でもある。
二輪・四輪とも輸出量が増え、自動車生産大国の道を歩み始めるのもこのころである。
1963年には日本初の高速道路、名神高速が開通した頃でもあり、日本は確実にモータリゼーションが開化した頃でもあった。
1964年、昭和39年とは、そのような年であった。

主人公の名は「邦光(くにみつ)良二」という。フィクションではあるが、高橋国光氏を意識したような名である。

以下に、バイクの、ライダーの本質に迫る石原慎太郎の言葉を引用してみる。

「二輪のレースに乗る時、僕あ、いつも何てかな、今日死ぬと言うことも確かにある筈なんだ、と思います。いつもそう思って乗るな。多分、みんなそうでしょうがね」


“そうじゃないか、最初に出たマン島TTレースで、ただもう夢中で走っていた俺の目の前でマッキンタイヤとトムフィリスがいったんだ。その時は、誰と誰がすっ飛んだかわかりはしなかった。その前の前の、いや、前の前の前のカーヴで俺を抜いていった一団の奴らが、その次の次の次のカーヴで折り重なって外側の石垣に叩きつけられ、内の誰かは石垣に跡を残してその向う側へすっ飛んで落ちていった。かけ出しの俺たちには、あの二人があれっきりいなくなったと言う意味が、その年、その時にはわからなかった。次の年、流星やタカタの日本車が大改良され、日本のライダーたちがいいところへのし上がった時に初めて、あの二人がもういないと言う意味がわかったんだ。あいつらが、誰でもないこの俺に、道を開けてくれたと言う訳が──。(後略)~”


走るために生まれて来た人間か。そうかも知れない。それでもいい。しかし考えるとおかしなものだな、言って俺も笑った。ベートーヴェンやラファエロと違って俺たちは一体何を作って残すと言うのかね。記録かね、そんなものはその内に容易く破られるよ。


「──そうなんだ。誰でも転ぶんだ。俺も転んだ。お前だって転んだ。そして俺はもう転ぶことをしない。しかし、お前は、或いはまた転ぶかも知れない。そうなんだ。ライダーって奴は、転ばなきゃどう変わりもしない。転ばなきゃ、どいつも、一生走りつづけてるだろうなあ」


そうなんだ、レースで、俺が追っているのは、あのチャップマンじゃない。相手のライダーじゃない。もっと違う何かだ。それが絶対なのか、その絶対て奴は何なんだ。
確かにわかることは、その絶対と言う奴の手前に、無数の転倒が、死が、ばらまかれてあると言うことだ。
俺はそれを踏みにじり、その上を突っ走り奴らを蹴散らす。そして優勝したとしよう、しかし、俺はその時、まだ何かに渇(かつ)えている。


2006年、都知事としてマン島に視察に訪れた石原氏は、かつてマン島を訪れたことがあるようなことを言っていた。いったいいつだったんだろう?と疑問に思っていたが、「飛べ、狼」を読んで答えが見えた気がした。

本田宗一郎がマン島視察に訪れたのが1952年(昭和29年)。
石原慎太郎が『太陽の季節』で芥川賞を授賞したのが1955年(昭和30年)。
1959年にホンダはマン島TTに初参戦し、1961年には初優勝する。
当時の流行作家としては、急激なモータリゼーションの波を察知しなかったわけがない。
しかも、時代は戦後の混乱から安保闘争に向かう頃で、盛んに「生きざま論」「死にざま論」が議論されたころでもあった。
人間の〈生〉 (あるいは〈死〉) をくっきりと表現するのに、オートバイは格好の題材だったのではないだろうか。

この小説からはっきりわかるのは、〈石原慎太郎はオートバイを知っている〉ということだ。

そして未だ三宅島オートバイレースの続報は聞こえてこない。


++++++日乗++++++
効果測定終了。1週間でこんなに(喜)。

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